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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)2074号 判決

原告

佐藤容子

ほか二名

被告

小塩栄一

ほか一一名

主文

一  被告小塩栄一、同大村和、同半谷哲郎及び同島田信也は各自、原告佐藤容子に対し一五九〇万九二一七円、同山本加代子及び同佐藤典章に対しそれぞれ七九五万四六〇八円並びにこれに対する昭和五八年一月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告小塩栄一、同大村和、同半谷哲郎及び同島田信也に対するその余の請求、被告小塩清二、同小塩弘子、同大村清次郎、同大村保子、同半谷二郎、同半谷ヨシノ、同島田義信及び同島田邦子に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らに生じた費用の三分の一と被告小塩栄一、同大村和、同半谷哲郎及び同島田信也に生じた費用を被告小塩栄一、同大村和、同半谷哲郎及び同島田信也の負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告小塩清二、同小塩弘子、同大村清次郎、同大村保子、同半谷二郎、同半谷ヨシノ、同島田義信及び同島田邦子に生じた費用を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告佐藤容子に対し三〇〇〇万円、同山本加代子及び同佐藤典章に対しそれぞれ一五〇〇万円並びにこれに対する昭和五八年一月二八日から支払すみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告小塩清二を除く被告ら)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五八年一月二七日午前〇時一二分ころ

(二) 場所 千葉市富士見一丁目一六番地先路上

(三) 加害車 自動二輪車(練馬や九五八五、車種スズキGS七五〇X)

運転者 被告小塩栄一(以下「被告栄一」という。)

(四) 被害者 亡佐藤昭二(以下「昭二」という。)

(五) 事故態様 被告栄一が加害車を運転走行中に加害車を転倒させたため、加害車が横転したまま滑走して昭二に衝突し、同人を死亡させた(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

(一) 本件事故の発生状況

(1) 被告栄一、同大村和(以下「被告和」という。)、同半谷哲郎(以下「被告哲郎」という。)及び同島田信也(以下「被告信也」という。なお、右四名を「本件未成年者ら」という。)は、いずれも千葉市立幸町第一中学校(以下「幸町第一中学校」という。)時代の同級生であり、本件事故当時満一七歳であつた。右四名は、集団で複数の自動車を共同して走行させ、ことさらにエンジンを空ぶかしするなどして威勢をあげたうえ、信号無視、通行帯無視、速度違反、急加速・急減速・蛇行運転等(以下「暴走行為」という。)をする仲間であるいわゆる暴走族の四街道スペクター幸町支部(以下「暴走族スペクター」という。)の構成員であつた。

(2) 被告栄一、同和及び同哲郎は、昭和五八年一月二六日午後八時過ぎころ、一緒に暴走行為をすること、それに用いる自動二輪車のうち一台は訴外田所某所有の自動二輪車(車種スズキGS四〇〇、以下「田所車」という。)を用いることとし、他の一台は適当な自動二輪車を窃取して用いることの合意をした。

(3) 被告栄一及び被告哲郎は、同日午後一〇時三〇分ころ、千葉市幸町八街区一三棟先の路上に駐車していた訴外今中雄一所有の加害車を窃取した。

(4) 被告信也は、加害車が被告栄一、同和及び同哲郎によつて窃取されたものであることを知りながら、右三名らと加害車を用いた暴走行為に参加することの合意をした。

(5) 本件未成年者らは、希望すれば適当な時期に加害車の運転を交替することの合意をして、同日午後一一時五〇分ころ、被告栄一が同信也を同乗させたうえ加害車を運転し、同哲郎が同和を同乗させたうえ田所車を運転して幸町ガーデンタウンD棟前から国鉄千葉駅方向に向かつて出発した。

(6) 出発してから本件事故現場付近に至るまでの加害車及び田所車の走行経路及び走行状態は以下のとおりであつた(以下「本件暴走行為」という。)。

〈1〉 本件未成年者らは、幸町ガーデンタウンD棟前を出発してから、沢口写真館前を右折し、常陽銀行前を直進し、中央公園前交差点を左折し、国鉄千葉駅前交差点(以下「本件交差点」という。)で転回して引き返し、中央公園前交差点を直進し、セントラルプラザ前交差点を右折し、京成千葉駅前交差点を右折し、田原屋デパート前交差点を左折し、常陽銀行前を右折し、国鉄千葉駅前の千葉市新町方面から要町方面に通ずる道路を本件交差点に向かつて走行した。この間の走行距離は約五キロメートルであつた。

〈2〉 加害車と田所車は、走行中交互に前後に入れ替わり、制限速度毎時四〇キロメートルのところを毎時七〇ないし八〇キロメートルで走行し、また、エンジンの空ぶかしをしてことさらに大きな音をだしながら蛇行して走行した。

〈3〉 信号機の設けられた交差点では、消音器をはずしていたため大きなエンジン音のでる田所車が先に交差点に侵入して、交差点の交通を止めたうえ、加害車と一緒に信号を無視して通過した。

(7) 本件未成年者らは、国鉄千葉駅前の千葉市新町方面から要町方面に通ずる道路を進行した際、同駅前警察官派出所の警察官をからかおうとして、新町方面から毎時一〇キロメートルの低速で、エンジンを空ぶかししたり蛇行したりしながら右派出所前を走行したが、警察官が出てこなかつたので、そのまま本件交差点を通過して要町方面に進行したところ、先行していた田所車と後続の加害車の距離が九〇メートルに広がつた。

(8) そこで、被告栄一は、田所車に追い付こうとして前記交差点を通過してから急加速し、さらに、同所先の道路が右にカーブしていたため、そのカーブ(以下「本件カーブ」という。)を最短距離で進行しようとして右側に車体を傾けたところ、加速が急激であり、かつ、車体の傾け方が大きかつたので、前記交差点から約二〇メートル進行したあたりで、加害車の後輪が左に流れてスリツプし、車体右側を下にして転倒した。加害車は、そのまま約三五メートル滑走したうえ、タクシーを降りて道路の左側に立つていた昭二に衝突して本件事故が発生した。

(二) 本件未成年者らの責任

(1) 不法行為責任

〈1〉 被告栄一の責任

自動二輪車の運転者は、自動二輪車がその性質上急加速したり、カーブで車体を傾け過ぎれば、容易に転倒することがあることに鑑み、急加速を控えるとともにカーブを進行する際には、カーブの緩急及び速度の高低に応じた車体の傾け方をしてその転倒を防止すべき注意義務があるところ、被告栄一は、前記のとおり、本件カーブの手前から急加速し、かつ、車体を急激に傾けて本件カーブを走行した結果、本件事故を惹起させたものであるから、被告栄一には、過失があるものというべきであり、したがつて、被告栄一は、民法七〇九条に基づき、原告らが本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものというべきである。

〈2〉 被告和、同哲郎及び同信也の責任

二人以上で複数の自動二輪車を共同して走行させる場合の各運転者及びその同乗者は、共同して信号無視、速度制限違反、急加速・急減速、蛇行運転等をすれば、重大な事故の発生する可能性が極めて高いことに鑑み、右のような運転行為及びそれを助勢するような行為を控えるべき注意義務があるところ、被告和、同哲郎及び同信也は、前記のとおり、被告栄一と一緒に加害車及び田所車に分乗したうえ二台で共同して走行するに当たり、信号無視、速度制限違反、急加速・急減速、蛇行運転等をし、また、そのような運転をするように助勢した結果、被告栄一の前記過失行為を誘発させ、もつて、本件事故を惹起させたものであるから、被告和、同哲郎及び同信也には、いずれも過失があるものというべきであり、したがつて、同被告らは、民法七〇九条、七一九条に基づき、原告らが本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものというべきである。

(2) 運行供用者責任

被告栄一、同和及び同哲郎は、前記のとおり、加害車を窃取し、同信也は、加害車が同栄一、同和及び同哲郎によつて窃取されたものであることを知りつつ、希望すれば適当な時期に運転を交替することを合意して、これを本件暴走行為に用いるなどして加害車の運行を支配し、かつ、その運行による利益を得ていたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、原告らが本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものというべきである。

(三) 本件未成年者らの各監督義務者の責任

(1) 未成年者の監督義務者は、未成年者が暴走族に加入して、暴走族の一員として仲間と共同して自動二輪車を運転又はこれに同乗して走行した場合には、信号無視、制限速度違反、急加速・急減速、蛇行運転等をすることが容易に予想され、それによる交通事故の発生の可能性が高いのであるから、夜間外出の禁止、暴走族からの脱退など非行及び暴走行為につながる生活状況を改めさせるための指導・監督、自動二輪車を運転又は同乗しての暴走行為をやめさせるための指導・監督、やむをえない事情で運転する場合でも、交通法規を遵守して安全運転に努め、危険な運転をさせないための指導・監督をすべき注意義務がある。

(2) 被告小塩清二及び同小塩弘子の責任

〈1〉 被告小塩清二(以下「被告清二」という。)及び同小塩弘子(以下「弘子」という。)は、被告栄一の父母(以下右三名を「被告小塩ら」という。)であり、本件事故当時被告栄一に対する監督義務を有していた。

〈2〉 被告栄一は、昭和四〇年一〇月一〇日生まれで本件事故当時満一七歳であつたが、幸町第一中学校在学中から非行を繰り返し、同中学を卒業後拓大紅陵高校に進学したがまもなく中退し、千葉市内の自動車工場に勤務していた。同人は、昭和五七年一月頃からは暴走族スペクターに加入し、夜間外出したり、運転免許を有しないにもかかわらず自動二輪車を運転して暴走行為を繰り返すようになり、右自動車工場を昭和五八年一月一八日に退職してからは、窃盗(学校荒し)による保護観察中であるにもかかわらず、家族と折り合いが悪くなつたため、家出して友人のアパートを泊まり歩いていた。

〈3〉 被告清二及び同弘子は、右〈2〉の状況を知りつつ、被告栄一に対して、夜間外出禁止、暴走族スペクターからの脱退など非行及び暴走行為につながる生活状況を改めさせるための指導・監督、自動二輪車を運転又は同乗しての暴走行為をやめさせるための指導・監督、やむをえない事情で運転する場合でも、交通法規を遵守して安全運転に努め、危険な運転をさせないための指導・監督をいずれも怠つた。

〈4〉 したがつて、被告清二及び同弘子は、右(1)の注意義務に違反し、その結果被告栄一の前記過失行為を誘発させ、もつて本件事故を発生させたものであるから、被告清二及び同弘子には、いずれも過失があるものというべきであり、したがつて、同被告らは、民法七〇九条に基づき、原告らが本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものというべきである。

(3) 被告大村清次郎及び同大村保子の責任

〈1〉 被告大村清次郎(以下「被告清次郎」という。)及び同大村保子(以下「保子」という。)は、被告和の父母(以下右三名を「被告大村ら」という。)であり、本件事故当時被告和に対する監督義務を有していた。

〈2〉 被告和は、昭和四〇年四月三〇日生まれで本件事故当時満一七歳であつたが、幸町第一中学校在学中から非行を繰り返し、同中学校を卒業後千葉県立検見川高校に進学したが中退し、本件事故当時はそば屋の店員として働いていた。同人は、暴走族スペクターのリーダーとして活動し、夜間外出したり、原動機付自転車の運転免許しか有しないにもかかわらず友人から自動二輪車を譲り受けてこれを保有したうえ、自動二輪車を運転して暴走行為を繰り返すようになつた。

〈3〉 被告清次郎及び同保子は、右〈2〉の状況を知りつつ、被告和に対して、夜間外出の禁止、暴走族スペクターからの脱退など非行及び暴走行為につながる生活状況を改めさせるための指導・監督、自動二輪車を運転又は同乗しての暴走行為をやめさせるための指導・監督、やむをえない事情で運転する場合でも、交通法規を遵守して安全運転に努め、危険な運転をさせないための指導・監督をいずれも怠つた。

〈4〉 したがつて、被告清次郎及び同保子は、右(1)の注意義務に違反し、その結果本件暴走行為に至らしめたうえ、被告栄一の前記過失行為を誘発させ、もつて本件事故を発生させたものであるから、被告清次郎及び同保子には、いずれも過失があるものというべきであり、したがつて、同被告らは、民法七〇九条に基づき、原告らが本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものというべきである。

(4) 被告半谷二郎及び同半谷ヨシノの責任

〈1〉 被告半谷二郎(以下「被告二郎」という。)及び同半谷ヨシノ(以下「ヨシノ」という。)は、被告哲郎の父母(以下右三名を「被告半谷ら」という。)であり、本件事故当時被告哲郎に対する監督義務を有していた。

〈2〉 被告哲郎は、昭和四〇年五月一〇日生まれで本件事故当時満一七歳であつたが、幸町第一中学校在学中から非行を繰り返し、同中学を卒業後千葉市立稲毛高校、千葉県立幕張高校に進学したが中退し、しばらく定職に就かずにぶらぶらしていたが、昭和五七年一二月二〇日ころから、寿司屋の出前のアルバイトをしていた。同人は、同年四月に自動二輪車の運転免許を取得したが、交通違反を繰り返し、本件事故までの九か月の間に二回免許停止処分を受け、同年一二月からは暴走族スペクターに加入し、夜間外出したり、自動二輪車を運転して暴走行為を繰り返すようになつた。

〈3〉 被告二郎及び同ヨシノは、右〈2〉の状況を知りつつ、被告哲郎に対して、夜間外出の禁止、暴走族スペクターからの脱退など非行及び暴走行為につながる生活状況を改めさせるための指導・監督、自動二輪車を運転又は同乗しての暴走行為をやめさせるための指導・監督、やむをえない事情で運転する場合でも、交通法規を遵守して安全運転に努め、危険な運転をさせないための指導・監督をいずれも怠つたほか、大型の自動二輪車を買い与えたり、アパートを借り与えたりするなど、非行及び暴走行為の誘因となるような行為をした。

〈4〉 したがつて、被告二郎及び同ヨシノは、右(1)の注意義務に違反し、その結果本件暴走行為に至らしめたうえ、被告栄一の前記過失行為を誘発させ、もつて本件事故を発生させたものであるから、被告二郎及び同ヨシノには、いずれも過失があるものというべきであり、したがつて、同被告らは、民法七〇九条に基づき、原告らが本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものというべきである。

(5) 被告島田義信及び同島田邦子の責任

〈1〉 被告島田義信(以下「被告義信」という。)及び同島田邦子(以下「被告邦子」という。)は、被告信也の父母(以下右三名を「被告島田ら」という。)であり、本件事故当時被告信也に対する監督義務を有していた。

〈2〉 被告信也には、昭和四〇年一一月二五日生まれで本件事故当時満一七歳であつたが、幸町第一中学校在学中から非行を繰り返し、同中学校を卒業後拓大紅陵高校に進学したが中退し、その後は定職に就かないでぶらぶらしていた。同人は、昭和五八年一月ころから暴走族スペクターに加入し、夜間外出したり、原動機付自転車の運転免許しか有しないにもかかわらず、自動二輪車を運転して暴走行為を繰り返すようになつた。

〈3〉 被告義信及び同邦子は、右〈2〉の状況を知りつつ、被告信也に対して、夜間外出の禁止、暴走族スペクターからの脱退など非行及び暴走行為につながる生活環境を改めさせるための指導・監督、自動二輪車を運転又は同乗しての暴走行為をやめさせるための指導・監督、やむをえない事情で運転する場合でも、交通法規を遵守して安全運転に努め、危険な運転をさせないための指導・監督をいずれも怠つた。

〈4〉 したがつて、被告義信及び同邦子は、右(1)の注意義務に違反し、その結果本件暴走行為に至らしめたうえ、被告栄一の前記過失行為を誘発させ、もつて本件事故を発生させたものであるから、被告義信及び同邦子には、いずれも過失があるものというべきであり、したがつて、同被告らは、民法七〇九条に基づき、原告らが本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものというべきである。

3  損害

(一)(1) 逸失利益 五〇六九万七六〇九円

昭二は、本件事故当時満五五歳の健康な男子で、訴外日本電設株式会社に勤務し、昭和五七年には年額七八五万九四〇〇円の収入を得ていたものであるから、本件事故に遭遇しなければ満六七歳まで一三年間稼働して年額平均七八五万九四〇〇円の収入を得られたはずのところ、本件事故により右得べかりし収入をすべて失い、右相当の損害を被つた。そこで、三〇パーセントの生活費の控除及び新ホフマン式計算法による年五分の割合による中間利息の控除を行つて、同人の死亡時における逸失利益の現価を算定すると、五〇六九万七六〇九円となる。

(2) 相続

原告佐藤容子(以下「原告容子」という。)は昭二の妻、同山本加代子(以下「原告加代子」という。)及び同佐藤典章(以下「典章」という。)は昭二の子であり、他に昭二の相続人はいないから、昭二の権利義務を法定相続分に従い原告容子は二分の一、同加代子及び同典章は各四分の一の割合で相続により取得した。

(二) 葬儀費用 原告容子 六〇万円

同加代子、同典章 各三〇万円

原告らは、昭二の葬儀費用として相当額の支払をしたが、このうち本件事故と相当因果関係のある損害は原告容子につき六〇万円、同加代子及び同典章につき各三〇万円である。

(三) 慰藉料 原告容子 一二〇〇万円

同加代子、同典章 各六〇〇万円

原告らは、本件事故により昭二を失い多大の精神的苦痛を受け、これらの損害は原告容子につき一二〇〇万円、同加代子及び同典章につき各六〇〇万円を下ることはない。

(四) 損害の填補 一九六四万九三〇〇円

原告らは、国から自賠法七二条一項に基づき一九六四万九三〇〇円の支払を受けたので、これを法定相続分に応じて原告らの前記損害に填補した。

(五) 弁護士費用 原告容子 二八〇万円

同加代子、同典章 各一四〇万円

原告らは、弁護士である原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、相当額の報酬等弁護士費用の支払を約束したが、このうち本件事故と因果関係のある損害として被告らが負担すべき額は原告容子につき二八〇万円、同加代子及び同典章につき各一四〇万円である。

4  よつて、原告らは、被告ら各自に対し、本件事故による損害賠償として原告容子につき前記損害合計三〇九二万四一五四円のうち三〇〇〇万円、同加代子及び同典章につき前記損害合計各一五四六万二〇七七円のうち各一五〇〇万円並びにこれに対する本件事故の日の翌日である昭和五八年一月二八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告大村らの認否

1  請求原因1(事故の発生)のうち、(一)ないし(四)の各事実は認める。(五)の事実のうち、昭二が死亡したことは認めるが、その余の事実は不知。

2  同2(責任原因)について

(一) 同2(一)の(6)の〈1〉を認め、〈2〉及び〈3〉を否認し、(2)ないし(4)及び(8)の各事実は不知。(1)の事実のうち、本件未成年者らが同級生であつたこと及び本件事故当時満一七歳であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。(5)の事実のうち、希望すれば適当な時期に加害車の運転を交替することを合意していたことを否認し、その余の事実は認める。(7)の事実のうち、新町方面から要町方面に進行したこと及びその際田所車が前を走行したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 同2(二)(1)の〈2〉のうち、注意義務の存在及び被告和に民法七〇九条、七一九条に基づく損害賠償責任がある旨の主張は争い、その余の事実は否認する。被告和は田所車に同乗していたに過ぎず、被告栄一の過失とは何ら関係がない。(2)のうち、被告和に自賠法三条に基づく損害賠償責任がある旨の主張は争い、その余の事実は否認する。被告和は田所車に同乗していたに過ぎないから、加害車についての運行支配も運行利益もない。

(三) 同2(三)の(1)の注意義務の存在は争う。(3)の〈1〉の事実は認める。〈2〉の事実のうち、非行を繰り返したこと及び暴走行為を繰り返すようになつたことは否認するが、その余の事実は認める。〈3〉の事実は否認する。被告清次郎及び同保子は、被告和に対して門限を午後一一時と定めたり、二輪車を運転する際には交通法規を遵守し事故を起こさないように指導・監督していた。〈4〉の損害賠償義務は争う。本件事故は被告栄一の過失によつて発生したものであり、被告清次郎及び同保子の監督義務とは何らの関係もない。

3  同3(損害)のうち、(一)(2)及び(四)の各事実を認め、その余の事実は不知。

三  請求原因に対する被告半谷らの認否

1  請求原因1(事故の発生)のうち、(一)ないし(四)の各事実は認める。(五)の事実のうち、昭二が死亡したことは認めるが、その余の事実は不知。

2  同2(責任)について

(一) 同2(一)の(2)ないし(4)、(6)の〈1〉の各事実は認め、(5)及び(6)の〈2〉、〈3〉の各事実を否認する。(1)の事実のうち、本件未成年者らが同級生であつたこと及び本件事故当時満一七歳であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。(7)の事実のうち、新町方面から要町方面に進行したこと及びその際田所車が前を走行したことは認めるが、その余の事実は否認する。(8)の事実は不知。

(二) 同2(二)(1)の〈2〉のうち、注意義務の存在及び被告哲郎に民法七〇九条、七一九条に基づく損害賠償責任がある旨の主張は争い、その余の事実は否認する。本件事故は被告栄一の過失によつて発生したものであり、被告哲郎の田所車の運転行為とは相当因果関係がない。(2)のうち、加害車を窃取したことは認めるが、被告哲郎に自賠法三条に基づく損害賠償責任がある旨の主張は争い、その余の事実は否認する。被告栄一のみが加害車を運転していたものであるから、被告哲郎には運行支配も運行利益もなかつた。

(三) 同2(三)の(1)の注意義務の存在は争う。(4)の〈1〉の事実は認める。〈2〉の事実のうち、非行を繰り返したこと、定職に就かずにぶらぶらしていたこと及び暴走族スペクターに加入し、夜間外出したり、自動二輪車を運転して暴走行為を繰り返すようになつたことは否認するが、その余の事実は認める。〈3〉の事実のうち、自動二輪車の取得の際に援助したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告二郎及び同ヨシノは、被告哲郎に対し自動二輪車を運転する際には安全運転するように注意し、免許停止処分を受けた際にもその都度注意しただけでなく、夜間外出及び一人暮らしについても相当の注意、指導・監督を行なつていた。〈4〉の損害賠償義務は争う。本件事故は被告栄一の過失によつて発生したものであり、被告二郎及び同ヨシノの監督義務とは何らの関係もない。

3  同3(損害)のうち、(一)(2)及び(四)の各事実を認め、その余の事実は不知。

四  請求原因に対する被告島田らの認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

2  同2(責任)について

(一) 同2(一)の(1)、(6)及び(7)の各事実を認め、(2)及び(3)の各事実は不知。(4)のうち、被告信也が同栄一、同和及び同哲郎と一緒に走行することを合意したことは認めるが、その余の事実は否認する。(5)のうち、誰かが希望すれば適当な時期に加害車の運転を交替することを合意していたことは否認し、その余の事実は認める。(8)のうち、本件カーブを最短距離で進行しようとして右側に車体を傾けたことは知らないが、その余の事実は認める。

(二) 同2(二)(1)の〈2〉のうち、注意義務の存在及び被告信也に民法七〇九条、七一九条に基づく損害賠償責任がある旨の主張は争い、その余の事実は否認する。(2)のうち、被告哲郎に自賠法三条に基づく損害賠償責任がある旨の主張は争い、その余の事実は否認する。

(三) 同2(三)の(1)の注意義務の存在は争う。(5)の〈1〉の事実は認める。〈2〉の事実のうち、非行を繰り返したこと及び自動二輪車を運転して暴走行為を繰り返すようになつたことは否認するが、その余の事実は認める。〈3〉の事実は否認する。被告義信及び同邦子は、被告信也の日常生活及び暴走行為をしないように機会ある毎に注意、指導・監督していた。〈4〉の損害賠償義務は争う。

3  同3(損害)のうち、(一)(2)及び(四)の各事実を認め、その余の事実は不知。

五  過失相殺(被告大村ら、同半谷ら及び同島田ら)

歩車道の区分のある道路における歩行者は、不必要に車道に立ち入ることを控え、車道に立ち入つた場合には車両の動静に十分注意し、車両との衝突を回避すべき義務を負うところ、昭二は、本件事故現場付近の道路が片側二車線の交通量の多い道路であり、歩道と車道との間に約二〇センチメートルの段差があつて、歩道の縁石上には高さ約一メートルのパイプ製ガードレールが設置されていたのに、タクシーから降車した後も歩道内に入らないで車道の左端に歩道側を向いたまま佇立し、車両の動静に全く注意していなかつた。昭二がタクシーから降車後速やかに歩道内に入るか、少なくとも車道側に向いて車両の動静を注意していれば、本件事故を避けることができたはずであつた。したがつて、昭二には本件事故発生について過失があるというべきである。

六  過失相殺の主張に対する原告らの認否

本件事故現場付近の道路が歩車道に区分されていたこと、ガードレールが設置されていたこと及び昭二がタクシーから降車して車道の左端に歩道側を向いたまま佇立していたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件事故は、車道を通常に走行していた車両による事故ではなく、暴走行為をしていた加害車が横転して昭二に衝突するという特異な事故であつたから、過失相殺の前提を欠くというべきである。

七  被告小塩清二について

被告小塩清二は、公示送達による適式の呼出を受けたが、本件口頭弁論に出頭しない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)について

請求原因1の(一)ないし(五)の各事実について判断するに、被告大村ら、同半谷ら及び同島田らとの関係ではいずれも成立に争いがなく、同小塩らとの関係ではその方式及び趣旨によりいずれも公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証、同第三ないし第五号証並びに被告小塩栄一本人尋問の結果によれば、これを認めることができる(右各事実は被告島田らとの関係では全て当事者間に争いがなく、同大村ら及び同半谷らとの関係では、同(五)のうちの被告栄一が加害車を運転走行中に加害車を転倒させたため加害車が横転したまま滑走して昭二に衝突したことを除いて当事者間に争いがない。)。

二  請求原因2の(一)(本件事故の発生状況)について

請求原因2の(一)の各事実について判断するに、前掲甲第一号証、同第三ないし第五号証、被告大村ら、同半谷ら及び同島田らとの関係ではいずれも成立に争いがなく、同小塩らとの関係ではその方式及び趣旨によりいずれも公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第二号証、同第六ないし第一一号証、同第一三ないし第一九号証、成立に争いがない乙イ第二、第三号証、乙ハ第一号証並びに被告小塩栄一、同大村和、同半谷哲郎及び同島田信也の各本人尋問の結果を総合すれば、これを認めることができる(被告大村らの関係では、請求原因2(一)の(1)の事実のうち本件未成年者らが同級生であつたこと及び本件事故当時満一七歳であつたこと、(5)の事実のうち誰かが希望すれば適当な時期に加害車の運転を交替することを合意していたことを除くその余の事実、(6)の〈1〉の事実、(7)の事実のうち新町方面から要町方面に進行したこと及び田所車が先行したことは、当事者間に争いがない。被告半谷らとの関係では、同2(一)の(1)の事実のうち本件未成年者らが同級生であつたこと及び本件事故当時満一七歳であつたこと、(2)ないし(4)の各事実、(6)の〈1〉の事実、(7)の事実のうち新町方面から要町方面に進行したこと及び田所車が先行したことは、当事者間に争いがない。被告島田らとの関係では、請求原因2(一)の(1)、(6)及び(7)の各事実、(4)の事実のうち被告信也が同栄一、同和及び同哲郎と一緒に走行することを合意したこと、(5)の事実のうち誰かが希望すれば適当な時期に加害車の運転を交替することを合意していたことを除くその余の事実、(8)の事実のうち本件カーブを最短距離で進行しようとしても右側に車体を傾けたことを除くその余の事実は、当事者間に争いがない。)。なお、同2(一)(5)の事実のうち誰かが希望すれば適当な時期に加害車の運転を交替する旨の明示の合意は認められないが、前記認定のとおり、本件未成年者らはいずれも幸町第一中学校時代の同級生であり、暴走族スペクターの構成員であつたこと、被告栄一、同和及び同哲郎は自動二輪車の窃取を共謀したこと、右共謀に基づいて被告栄一及び同哲郎が加害車を窃取したこと、被告信也は加害車が同栄一、同和及び同哲郎によつて窃取されたものであることを知りつつ本件暴走行為に参加したことが認められ、さらに、被告半谷哲郎及び同島田信也の各本人尋問の結果によれば、暴走行為は運転するのが一番おもしろいこと、本件暴走行為を開始する際の乗車位置は特に話し合つて決めたわけではなく成り行きで決まつたこと、本件暴走行為を開始してから本件事故が発生するまで短時間であつたため、現実には誰も交替の希望を言つていないが、誰かがその希望を言えば交替してもらえた状況にあつたことが認められ、右事実を総合すれば、少なくとも誰かが希望すれば適当な時期に加害車の運転を交替する旨の黙示の合意があつたものと認めるのが相当である。

三  そこで、本件未成年者らの責任について検討する。

1  被告栄一の責任について

右に認定した事実によれば、被告栄一が自賠法三条に基づき、原告らが本件事故により被つた後記損害につき賠償責任を負うことは明らかである。

2  被告和、同哲郎及び同信也の責任について

暴走族による共同暴走行為は、複数の自動車を連ねて走行させ、互いに他の自動車の走行を利用し、共同して、危険行為、道路交通法規違反行為をすること自体を目的としてあえて信号無視、速度制限違反、急加速・急減速、蛇行運転等の事故の発生する可能性の高い危険な運転行為をするものであるから、共同で暴走行為をすることを合意して右共同暴走行為に運転者又は同乗者として参加した者は、共同暴走行為中、暴走行為による事故が発生した場合には、当該事故車の運行につき運行支配及び運行利益を有するものというべきである。本件において、前記認定のとおり、被告栄一、同和及び同哲郎は自動二輪車の窃取を共謀したこと、右共謀に基づいて被告栄一及び同哲郎が加害車を窃取したこと、被告信也は加害車が同栄一、同和及び同哲郎によつて窃取されたものであることを知りつつ本件暴走行為に参加したこと、本件未成年者らは互いに希望すれば適当な時期に運転を交替することを黙示に合意したうえ加害車を用いて本件暴走行為をしたこと等の事実が認められ、右事実によれば、被告栄一を除くその余の本件未成年者らも、加害車の運行を支配し、かつ、その運行による利益を得ていたものというべきであるから、自賠法三条に基づき原告らが本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものというべきである。

四  次に、本件親権者らの責任について判断する。

1  責任能力のある未成年者A、Bらが共同暴走行為中、Aの過失ある自動車の運転行為により第三者Cが損害を被つた場合において、Aの親権者A'のAに対する監護義務違反と、Bの親権者B'のBに対する監護義務違反と右Cの損害との間にそれぞれ相当因果関係があるものとしてA'又はB'が民法七〇九条に基づき右損害につき賠償責任を負うためには、A'においては、Aが共同暴走行為等第三者に危害を加えるおそれのある態様で車を運転する性癖を有していることを知るに至つていたうえ、Aに対する監護義務を尽くすときには、Aの右のような運転行為を阻止することができたにもかかわらず、これを怠つたことを要するものというべきであり、また、B'においては、Bが共同暴走行為に加わることを予見することができたうえ、Bに対する監護義務を尽くしたときには、Bが共同暴走行為に加わることを阻止しえたにもかかわらず、これを怠つたことを要するものというべきである。

けだし、自動車それ自体は危険な道具ではなく、それが第三者の生命、身体等を侵害する危険なものとなるのは、運転者が道路交通法に違反する等の危険な態様で運転することによつてであるから、未成年者が自動車を運転することによつて惹起した事故につき、その親権者に対し、当該被害者の生命、身体等を侵害しないようにするために監護上の措置を採るべき作為義務があつたと措定し、その不履行を理由として民法七〇九条に基づく不法行為責任を課しうるのは、親権者が未成年者において自動車を運転していること又はこれに加えて怠学、非行一般があることを知るに至つたのみでは足りず、未成年者が右のような危険な態様で自動車を運転する傾向ないしは性癖を有するに至つたうえ、親権者がこれを知つた場合に限られるものというべきであり、また、右の場合において、親権者が監護義務として採るべき措置も、未成年者の年齢、性質、親権者と未成年者との間の信頼関係等を考慮し、未成年者の危険な態様での運転行為を抑止しうる効果を有するものであつて、親権者において現実に採ることが可能なものであることを要すると解するのが相当だからである。

本件において、以下これを検討することとする。

2(一)  前掲甲第三ないし第五号証、同第一七号証及び被告小塩栄一本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告清二及び同弘子は、被告栄一の父母であり、本件事故当時被告栄一に対する監督義務を有していたこと、被告栄一は、昭和四〇年一〇月一〇日生まれで本件事故当時満一七歳であつたこと、幸町第一中学校三年生に在学中に被告信也と一緒に原動機付自転車を盗み出して、無免許で運転したことがあつたこと、拓大紅陵高校に進学したがまもなく中退したこと、その後は千葉市内の自動車工場に勤務していたこと、昭和五七年一月ころに暴走族スペクターに加入したこと、運転免許を有しないにもかかわらず自動二輪車を運転又はこれに同乗して暴走行為に参加したこと、被告和及び同哲郎と共に一、二回、被告信也と共に数回各暴走行為をしたことがあつたこと、右自動車工場を昭和五八年一月五日に退職し、そのため家族と折り合いが悪くなり、同月一八日ころ家出して友人のアパートを泊まり歩いていたこと、本件事故当時は窃盗(学校荒し)による保護観察中であつたこと、被告清二及び同弘子は、被告栄一が何回も無免許で自動二輪車を運転しているのを目撃し、その都度同被告に対し口頭で注意をしていたとの事実が認められる。

右に認定した事実によれば、被告清二及び同弘子は、本件事故前に被告栄一が共同暴走行為をしていたことを知つたとはいえないが、無免許で自動二輪車を運転するという第三者に対し危害を加えるおそれのある態様で自動車を運転する傾向を有していることを知るに至つたものというべきである。しかしながら、被告清二及び同弘子が、被告栄一に対し、同被告が無免許運転をしているのを目撃する都度口頭で無免許運転をしないように注意をしていたというのであり、それ以上に、既に一七歳に達し、本件事故を惹起する一〇日前に家を出て友人のところを泊り歩いていた同被告に対し、右の行為を抑止しうる措置があつたといえる事実関係は、本件全証拠をもつてしてもこれを認めるに足りない。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告清二及び同弘子に対する請求は理由がないものというべきである。

(二)  前掲甲第六号証、同第一六号証及び同第一八号証、被告大村和、同大村清次郎、同大村保子、同半谷哲郎、同半谷二郎、同半谷ヨシノ、同島田信也、同島田義信及び同島田邦子各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の各事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) (イ)被告清次郎及び同保子は同和の親権者であり、本件事故当時同被告に対する監護義務を負つていた。(ロ)同被告は、昭和四〇年四月生れで、高等学校を中途退学し、本件事故当時、そば屋の店員として働いていた者であるが、暴走族スペクターのリーダーとなり、夜間外出したり、原動機付自転車の運転免許しか有しないにもかかわらず、自動二輪車を取得して暴走行為に加わつていた。

(2) (イ)被告二郎及び同ヨシノは同哲郎の親権者であり、本件事故当時同被告に対する監護義務を負つていた。(ロ)同被告は、昭和四〇年五月生れで、高等学校を中途退学し、本件事故当時、すし屋の店員として働いていた者であり、自動二輪車及びその運転免許を取得したが、交通違反により免許停止処分を受けたり、暴走行為に加わつたりしていた。

(3) (イ)被告義信及び同邦子は同信也の親権者であり、本件事故当時同被告に対する監護義務を負つていた。(ロ)同被告は、昭和四〇年一一月生れで、高等学校を中途退学し、定職につかず、夜間外出し、原動機付自転車の運転免許しか有しないにもかかわらず、自動二輪車による暴走行為に加わつていた。

しかしながら、本件全証拠をもつてしても、被告清次郎及び同保子が同和において、同二郎及び同ヨシノが同哲郎において、同義信及び同邦子が同信也において、本件事故前に、それぞれ共同暴走行為に加わつていることを知るに至つたと認めるに足りないし、また、本件共同暴走行為を予見しえたといえるような事情も認めるに足りない。

したがつて、被告清次郎及び同保子、同二郎及び同ヨシノ並びに同義信及び同邦子に各監護義務違反があつたとはいえないから、右各被告らが本件事故により原告らの被つた損害につき賠償責任があるものとはいえない。それゆえ、その余の点について判断するまでもなく、原告らの右被告らに対する各請求はいずれも理由がないものというべきである。

五  損害について判断する。

1(一)  逸失利益

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二一号証及び弁論の全趣旨によれば、昭二は、昭和二年一一月一日生まれ(本件事故当時満五五歳)の健康な男子で、訴外日本電設工業株式会社に勤務していたこと、昭和五七年には年額七八五万九四〇〇円の収入を得て妻である原告容子を扶養していたこと、本件事故に遭遇しなければ満六七歳に達するまで一二年間稼働することが可能であつたことが認められるから、その間の所得を算定するに、満五五歳から満六〇歳に達するまでは同人の昭和五七年の年収七八五万九四〇〇円を、満六〇歳から満六七歳に達するまでは右金額の八割を基礎とし、生活費として四割を控除し、ライプニツツ式計算法による年五分の割合による中間利息の控除を行うのを相当と認め、同人の死亡時における逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、三七五一万九七〇六円となる(一円未満切捨)。

七八五万九四〇〇円×(一-〇・四)×四・三二九四+七八五万九四〇〇円×〇・八×(一-〇・四)×(八・八六三二-四・三二九四)=三七五一万九七〇六円

(二)  相続

原告容子が二分の一、原告加代子及び原告典章が各四分の一の相続権を有することは、被告大村ら、同半谷ら及び同島田らとの関係では当事者間に争いがなく、被告小塩らとの関係では弁論の全趣旨によりこれを認めることができるから、昭二の右(一)の損害を原告容子が二分の一(一八七五万九八五三円)、原告加代子及び原告典章が各四分の一(各九三七万九九二六円、一円未満切捨)ずつ相続により取得したことが認められる。

2  葬儀費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは昭二の葬儀費用として相当額の支払をしたものと認められるところ、本件事故と相当因果関係のある損害としては、原告容子につき五〇万円、原告加代子及び原告典章につき各二五万円をもつて相当と認める。

3  慰藉料

前記認定の本件事故の態様、原告らと昭二の身分関係、同人の年齢その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、同人が死亡したことにより原告らが被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、原告容子につき八〇〇万円、原告加代子及び原告典章につき各四〇〇万円をもつて相当と認める。

4  過失相殺

前掲甲第一号証、同第一九号証及び乙ハ第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故現場の道路は、幅員一三・〇メートルで片側二車線の交通量の多い道路であること、歩道と車道に区分されていたこと(右事実は被告大村ら、同半谷ら及び同島田らとの関係においては争いがない。)、歩車道間に約二〇センチメートルの段差があつて、歩道の縁石上には高さ約一メートルのパイプ製ガードレールが設置されていたこと(ガードレールが設置されていたことは前記当事者間においては争いがない。)、昭二は、本件事故現場の車道上でタクシーから降りたが、一緒にいた訴外斎藤が歩道上の屋台の経営者と話を始めたので、その間車道左端に歩道上を向いたまま待つていたこと、その間昭二は車道を走行していた車両の動静に注意を払つていなかつたこと(昭二がタクシーから降車して車道左端で歩道を向いたまま佇立していたことは前記当事者間においては争いがない。)が認められる。ところで、歩車道の区分のある道路における歩行者は、不必要に車道に立ち入ることを控え、車道に立ち入つた場合には車両の動静に十分注意して車両との衝突等の事故の発生を未然に防止すべき義務を負うものというべきところ、右に認定した事実によれば、昭二は右の注意義務に違反したことが明らかであり、その過失は、前記認定したとおり加害車が横転したまま滑走して昭二に衝突したという本件事故の特異性を考慮しても、これを斟酌すべきであるから、過失相殺として原告らの前記損害から一割を控除するのが相当である。

5  損害の填補

原告らが国から自賠法七二条一項に基づき一九六四万九三〇〇円の支払を受けた事実及びこれを法定相続分に応じて原告らの前記損害に填補した事実は被告大村ら、同半谷ら及び同島田らとの関係では当事者間に争いがなく、被告小塩らとの関係では弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。右支払額の限度で原告らの損害は填補されたものというべきである。

6  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事故に基づく損害賠償請求権につき被告らから任意の弁済を受けられなかつたため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、その費用及び報酬の支払を約束したことが認められるところ、本件訴訟の難易度、認容額、審理の経過、その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、原告容子につき一二〇万円、原告加代子及び原告典章につき各六〇万円と認めるのが相当である。

四  以上のとおりであるから、原告らの本訴各請求は、被告小塩栄一、同半谷哲郎、同大村和及び同島田信也各自に対し原告容子につき一五九〇万九二一七円、原告加代子及び原告典章につきそれぞれ七九五万四六〇八円並びにこれに対する本件事故の日の翌日である昭和五八年一月二八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを正当として認容するが、被告小塩栄一、同半谷哲郎、同大村和及び同島田信也に対するその余の請求並びに被告小塩清二、同小塩弘子、同半谷二郎、同半谷ヨシノ、同大村清次郎、同大村保子、同島田義信及び同島田邦子に対する請求はいずれも理由がないので失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田保幸 中西茂 竹野下喜彦)

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